日本の航空宇宙産業の現況
信頼性の高い技術
〈防衛機〉
現在開発中及び部隊配備が開始されている防衛省向けの航空機をご紹介します。
●救難大型飛行艇 US-2
US-2は、US-1A の後継機として1996年度から開発が始まり、2003年12月に初飛行を成功させました。2007年3月より部隊配備が開始されています。
●固定翼哨戒機 P-1、次期輸送機 XC-2
P-1、XC-2は、それぞれP-3C、C-1 等の後継機として、2001年度から2機種同時開発が始まりました。これは、それぞれの開発過程の一部を共用化することで、開発費の削減を図ることが目的でした。
P-1は2007年9月に初飛行を成功させ、2008年度より部隊配備が開始されています。XC-2は2010年1月に初飛行を成功させ、2011年度より部隊配備を開始する予定です。
●無人機
F-104戦闘機の無人機化や自律飛行による自動着陸が可能な無人機研究システムの開発を行っています。
●中等練習機 T-4、初等練習機 T-7
T-4、T-7 等の練習機は、日本独自の設計・製造を行っています。特にT-4 は、機体・エンジンともに純国産です。戦技研究仕様機(通称・ブルーインパルス)にも採用され、各基地の航空祭等でデモフライトを行い、その機動性の高い飛行スタイルが観衆を魅了しています。
●先進技術実証機(高運動ステルス機)
実飛行環境下でのステルス技術を把握し、将来戦闘機に必要とされる能力を検証するために、ステルス形状・高運動飛行制御・新複合材材料等の先進技術を統合した先進技術実証機の試作を行っています。
これらの技術力は、民間航空機の設計・製造はもちろん、広く他産業界まで波及し、日本の工業技術の基盤形成に貢献しています。
〈国際共同開発機〉
日本企業は現在、さまざまな海外プロジェクト(下表)に参加し、世界の航空機生産において重要な役割を果たしています。
1970年後半のB767プロジェクトでは、詳細設計フェーズから参加し、胴体構造を中心に担当しました。その後、国際共同開発における日本の役割は高まり、2000年代のB787プロジェクトでは、構想設計フェーズから参加し、主翼等の難度が高い部分までを担当しました。責任範囲も構造設計や製造のみならず試験、TC 取得等にまで広がっています。
プロジェクト | 担当部位 | 参加形態 |
---|---|---|
B767(ボーイング) | 前胴、後胴、主脚扉 等 | プログラムパートナー 15% |
B777(ボーイング) | 中央部、前胴、後胴 等 | プログラムパートナー 21% |
B787(ボーイング) | 主翼、中央翼、前部胴体 等 | プログラムパートナー 35% |
グローバル・エクスプレス(ボンバルディア・エアロスペース) | 主翼、中胴 | RSP |
CRJ700/900(ボンバルディア・エアロスペース) | 尾胴、前脚および主脚システム | |
エンブラエル170/190(エンブラエル) | 主翼、中央翼 | |
ホーカー4000(レイセオン・エアクラフト) | 主翼構造システム | |
ガルフストリーム(ガルフストリーム・エアロスペース) | フラップ、脚作動装置 等 | サプライヤー |
エアバスA380(欧州エアバス) | 貨物扉、垂直尾翼用構造部材、チタンシート、炭素繊維、貯水タンク 等 | サプライヤー |
〈ヘリコプター〉
日本は、世界で5 番目のヘリコプター利用国であり、機体からエンジンに至るまで、ヘリコプターのすべてを国内で開発生産しています。特に機体構造やトランスミッションの製造技術は、世界から高い評価を受けています。
また、要素技術として最も重要なローターシステムでは、世界最先端の技術を駆使した複合材ベアリングレス・ローターシステムを開発生産しました。国際共同開発にも積極的に参加しています。
エンジン・装備品
〈航空エンジン〉
日本の航空エンジン開発は、防衛機用と民間機用の両分野で、先進技術を用いた各種の独自計画に参加しています。中でも民間旅客機用エンジンの分野では、国際共同開発に積極的に参加し、CF34、TRENT1000、GEnx 等の開発において重要な地位を占めています。
エンジン名 | 搭載機種 | 担当部品 | 参加形態 |
---|---|---|---|
TRENT1000(ロールス・ロイス) | B787(ボーイング) | 中圧圧縮機モジュール、燃焼器モジュール、低圧タービン翼 | RSP 16% |
GEnx(ゼネラル・エレクトリック) | B787(ボーイング) | 低圧タービン、高圧圧縮機、シャフトおよび燃焼器ケース | RSP 15%及びサブコン |
TRENT900(ロールス・ロイス) | A380(欧州エアバス) | 低圧タービン翼、中圧圧縮機ケース | サブコン |
TRENT500(ロールス・ロイス) | A340(欧州エアバス) | 中圧&低圧タービン翼、圧縮機ケース、タービンケース 等 | RSP 20% |
CF34-8/10(ゼネラル・エレクトリック) | CRJ700/900(ボンバルディア・エアロスペース)、EMBRAER170/190(エンブラエル)、ARJ21(中国商用飛機有限公司) | 低圧タービンモジュール、高圧圧縮機後段、ファンローター、ギアボックス 等 | RSP 30% |
PW4000(プラット・アンド・ホイットニー) | A310/330/340(欧州エアバス) | 低圧タービン翼、ディスク、燃焼器、アクティブ・クリアランス・コントロール 等 | RSP 11%及びサブコン |
GE90(GE) | B777(ボーイング) | 低圧タービン動翼、ディスク、ロングシャフト 等 | RSP 10% |
TRENT700/800(ロールス・ロイス) | A330(欧州エアバス)、B777(ボーイング) | 低圧タービン翼、ディスク、ロングシャフト、低圧タービンディスク、タービンケース | RSP 8~9% |
V2500(インターナショナル・エアロ・エンジンズ) | A320(欧州エアバス)、MD90(マクドネル・ダグラス) | ファン、低圧圧縮機、ファンケース 等 | プログラムパートナー 23% |
〈装備品〉
航空機には、機体の構造部分以外にも高い信頼性を有する膨大な装備品が必要です。日本の機器製造企業は、防衛装備品の安定的な供給に努め、防衛機の生産・修理基盤を構築しています。
また、ワイドボディ双発ジェット機B777の国際共同開発において、何社もの日本の機器製造企業が機器受注に成功する等、世界の民需マーケットでの活躍機会も増えています。
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〈先進材料技術〉
炭素繊維強化プラスティック(CFRP)を中心とした複合材料の航空機構造への利用が急速に広がっています。日本はCFRPの素材である炭素繊維生産で世界シェアの70%を占めており、複合材料適用率が50%とされている次世代中型ジェット旅客機B787 でも、最先端複合材製造技術を駆使して主翼や中央翼等の重要部位を製造しています。また、複合材料に次いで適用率が増しているチタン合金は、日本の精密鍛造・精密鋳造技術により、ジェットエンジンのファンケースやタービンブレードに使用されています。
現在、これらの先進材料技術を結集して国産のリージョナルジェット機(地域間輸送用旅客機)MRJの開発が進められています。
宇宙産業
〈ロケット〉
自主的な宇宙の開発・利用を目的として、液体ロケットでは世界の第一線ロケットと比肩しうるH-ⅡA、固体ロケットでは世界最大級規模を誇るM-V 等各種ロケットシステムを開発・運用してきました。また、自主的な宇宙開発・利用能力を確保するため、ロケット打ち上げ・衛星追跡・管制機能等を維持運用しています。
No | 主要諸元 | H-ⅡA | H-ⅡB | M-Ⅴ |
---|---|---|---|---|
1 | 全長 | 53m | 57m | 30.8m |
2 | 直径 | 4.0m | 5.2m | 2.5m |
3 | 全重量(ペイロード重量含まず) | 289t | 531t | 137.5t |
4 | 低軌道(LEO)打ち上げ能力 | 約10t | 約16.5t | 1.85t |
5 | 静止トランスファー軌道(GTO)打ち上げ能力 | 約4.0t | 約9t | — |
〈人工衛星〉
日本は、観測衛星技術の実証を目的とする衛星等の開発に取り組んでいます。1995年には、宇宙空間でさまざまな観測・実験を行った「宇宙実験・観測フリーフライヤー(SFU)」が、スペースシャトルに搭乗した日本人宇宙飛行士の手によって回収されました。
また、月周回衛星「かぐや」は、アポロ計画以来の本格的な月探査機として2007年9月に打ち上げられ、約2年間の運用期間で15種類にも及ぶ観測ミッションに成功しました。
2003年5月にM-V5号機によって打ち上げられた惑星探査機「はやぶさ」は、小惑星イトカワに着陸して回収したサンプルを、2010年6月に地球に届けるという輝かしい成果を挙げました。